仕事と子育てを両立しているMart読者にフィーチャーする「働くMartミセス」。今回、お話を聞かせてくださったのは、保育士の椿谷亜衣さんです。保育士として、自分と同じように働く親子を支えることにやりがいを見出していた椿谷さんですが、ある日、母としても仕事人としても基盤となる「育児観」に疑問を持つことに…。
【プロフィール】
千葉県在住 保育士 椿谷亜衣さん
週に3日、認可保育園で働く一方、週に2日は昨年知人とともに立ち上げた「森のようちえん やかまし村」にて先生として子どもたちと過ごす。趣味はランニング。夫と2人の娘(小2、5歳)の4人家族。
母になって気がついた向かうべき方向性と再出発に見た可能性
遊びのなかで成長してほしい。自身で立ち上げた「幼稚園」
「4月に入園した子どもたちが、年度終わりに近づくにつれ、朝や帰りの会でみんなの前で堂々と話ができるようになるなど、成長を実感できる瞬間がたくさん出てくるんです。そんな姿を目の当たりにできる喜びは、保育士冥利に尽きますね」
保育士として10年以上のキャリアを持つ椿谷さん。今は週に3日、認可保育園で働きつつ、週に2日は知り合いとともに立ち上げた「森のようちえん」で先生として活動している。
「昨年からスタートさせた『幼稚園』のいちばんの特徴は、園舎を持たず、公園で活動をしているという点です。開園も週に2日だけなので、園児たちはその日だけ普段通う保育園などをお休みして、習いごと感覚で参加してくれています」
目指すのは、子どもたちが想いのままに自由に遊べる場。
「大事にしているのは、子どもたちの自主性で、遊びを通じて自分を広げ、育つ体験をしてもらいたいと思っているんです」
朝集まると、子どもたちでその日したいことを話し合い、一日を遊び尽くす。活動時間中は先生と生徒の垣根はなく、常に対等。「先生だから」と遠慮することなく、泥だらけになって思いっきり遊ぶ。
「よっぽど危険な暴風雨の日以外は、雨でも雪でも外で遊びます。雪はもちろんのこと、雨の日は格好の『遊び日』。レインコートを着て水たまりで泥合戦をします」
まだ始まったばかりの「幼稚園」だが、子どもの成長には目を見張るものがあるという。
「一緒に遊び尽くしていると、子どもたちの心の奥の成長までしっかり見ることができるんです。この先長い人生の基盤になる幼児期に、お行儀とか、知識といった一般的なテクニックだけではなく、器そのものを大きく広げてあげられることに、意義とやりがいを感じています」
「私のママはどこ?」娘からのひと言で痛感。母としての崖っぷち
「保育士になった最初の数年間、感じていたのは、自分がまだ母親ではないことへの引け目でした」
自分と話していた保護者が、話が終わったあとにママ保育士に声をかけ、育児相談をする姿に多少なりとも過敏になっていた。
「もっと信頼してほしい!と必死でした。でも、いくら専門書を読んでもその壁はどうしても越えられませんでした」
転機は長女の出産だった。生後半年で娘を自分の勤める保育園に預ける形で復帰。母親になったことで保護者に対しても教科書で読んだセリフではなく、心からの言葉がけができるようになり、いつの間にか抱えていたコンプレックスはなくなった。
「親の心をほぐすことも保育士の大事な仕事です。親になったことで、保育士としても一つ階段を上ることができました」
一方、復帰した年の担当は5歳児クラス。卒園準備が近づき、忙しくなると夫が迎えに来られない日は、園の預かり保育を利用し、娘も夜9〜10時まで、園で過ごす日が増えた。
そしてある日、娘から言われた「私のママはどこにいるの?」のひと言。
「さすがにショックでした。園では母親の私を『先生』と呼ぶように言われていた娘は、長時間を園で過ごすなか、いつの間にか私を先生の一人だと認識してしまっていたんです」
この状況は絶対に変えなくてはと、翌年から時短勤務に変更。そして娘が3歳のときに次女を妊娠した。
「育休の期間に長女とゆっくり過ごせたのは、今の穏やかな親子関係を築くうえでとても意味のある時間でした」
母として保育士としてこれまでの自分に疑問。新境地で再出発
次女の育休が明けて復帰すると、配属先は園が運営する「子育て支援センター」だった。そこで目にしたのは、センターを訪れる母子の「おなかすいた?次はどこに行こうか?」とのんびり過ごす姿だった。
「ハッとしました。私は自宅でも保育園でも、時間ばかりを軸に動いていて、子どもの気持ちと向き合っていなかったと反省しました。そう思ったら、これまで実践していた保育が虚しく思えてきてしまったんです」
勤めてきた園は、まさに「型」を重んじる保育現場。時間を守り、食事マナーや言葉遣いなどに注力することが育児の基本だと思ってここまでやってきたが、その気持ちが一気に変わった。まず変えたのは自分の娘たちへの対応。
「それまでは『土日勝負!』と思って週末になると家族でテーマパークなどに頑張って出かけていたのですが、近所の公園に連れて行ったら、むしろそのほうが伸び伸び楽しんでいて。普段男の子たちがやっている遊びをこっそり再現したりと、自分のペースで楽しめるのがいい発散になるようでした」
仕事でももっと子どもの心と向き合いたい!そう思った椿谷さんは、子どもの個性や対話を重視する教育法(イエナプラン)をオランダで学んできたという知り合いに相談。すると、「一緒に幼児教育をやってみないか」と誘われた。
「びっくりしましたが、素直にやってみたい!と思いました」
こうして知り合いとともにつくったのが冒頭の「森のようちえん」だ。開園時に口コミやママネットワークによって集まった生徒は6名。2名の先生のほか、毎回保護者が2名参加するという体制。自由な保育は反響を呼び、半年後には生徒が18名に増えた。
「こんなに子どもが集まってすごくうれしいです。昨年は次女も参加していたのですが、ここで遊んでいるうちに、警戒心の強い性格がほぐれてきて。普段通っている園の先生からも『最近フレンドリーになって、朗らかになりましたね』と言われました。心のままに過ごし、遊びの中で育ち合う。これが子どもたちの心にはすごく響いていると実感しています」
そんな椿谷さんの今の目標は、「森のようちえん」を週5日開くことだそう。自分の信念を手に、エネルギッシュに自分の道を進む椿谷さん。成長していく子どもたちとともに変化していく姿が楽しみだ。
【椿谷さんの仕事の日のスケジュール】
5:30 起床・身支度
6:30 子ども起床・朝食準備
7:00 朝食
7:50 長女登校
8:00 夫出勤・次女登園
8:30 家を出る
9:00 「森のようちえん」に出勤
14:00 退勤
14:30 帰宅・夕食準備
15:00 長女帰宅
16:30 長女の習いごと送り・次女のお迎え
17:30 娘たちと帰宅
18:15 夕食
20:30 寝かしつけの朗読
23:00 夫と晩酌
24:00 就寝
家族のためを考えて自作のひき肉でヘルシーを意識
「食材のまとめ買いなどがうまくできなくて『時短』という点では悩んでいるのですが、『健康づくり』という視線は大事にしています」という椿谷さん。目下、椿谷さんが凝っているのが「ひき肉づくり」。きっかけはスーパーで購入するひき肉には脂分が多めと聞いたこと。以来、その日の料理に使う必要な肉の部位を買ってきては、フードプロセッサーで細かくし、ひき肉にするようにしているという。
「目的は夫と私のダイエットや健康だったのですが、自作ひき肉は家族からも好評で、カレーや餃子なども自作ひき肉でつくると夫が『美味しい!』と絶賛してくれるんです。まさに、ヘルシー&美味しいで一石二鳥ですね」(椿谷さん)
娘たちとの料理は楽しいプチイベント
夕方以降の忙しい時間帯にわざわざ一緒に遊ぶ時間をつくるのではなく、時間のある日に娘たちと食事づくりを一緒に楽しむというのが椿谷さん流。「食事づくりはコミュニケーションが取れるのでいいですね。子どもたちもとても楽しそうです」
「森のようちえん」に参加し、包丁などを使いこなしてきた次女は、5歳にしてすでになかなかの料理上手。よくつくるのは味噌汁、餃子など。「グッズがあると子どもも遊び感覚で料理に参加しやすいので、100円ショップのお料理キットも愛用しています。餃子キットやおにぎりキットは使いやすくてオススメです」
物語の世界に浸ってほしいから、寝かしつけは絵本でなく「朗読」に
もともと絵本を読み聞かせていた寝かしつけタイムだが、最近は暗くした娘たちの部屋で、本の朗読をしている。「長女が就学して文字が読めるようになったら、絵本を読んでいても文字ばかり気にするようになってしまって。文字よりも物語の世界に没頭してもらいたい、という思いから今のスタイルに変えてみました」。最近読んだ本は長女が選んで借りてきた『エルマーのぼうけん』や『長くつ下のピッピ』など。「聞いた内容をしっかり理解できているようで、昼間に物語の世界を絵に描いて遊んだりしています」(椿谷さん)
【こちらの記事もおすすめ】
Mart読者の介護体験③家族の協力で子育てと介護を両立
Mart世代のママの思い~「効率」と「健康」を考えながら料理する時代に~
夫の移籍でタイへ!サッカー選手妻・中村明花さんが語る「海外での子育て」
Mart読者の家庭の子ども部屋白書~部屋数やつくった時期、理由は?
Mart読者に聞きました「夏休みのお昼ごはん、みんなはどうしてる?」
撮影/平林直己(BIEI) 取材・文/須賀華子 構成/タカノマイ(Mart編集部)
Mart2019年9月号 「働くMartミセス」より