ひょんなことから「そばの国・福井」を訪れることになった、Mart編集長・小松。
現地で驚かされたのは、在来種の存在と、またそば作りに携わる人々のこだわり。後編ではさらにそのこだわりを取材していきます。
なぜこんなにも美味しい?越前そばの秘密②石臼でじっくり製粉
その後に向かったのは、気鋭の後継者が経営している製粉会社「カガセイフン」。ここでも、愚直ともいうべき「美味しいそば」への強いこだわりを目の当たりにしたのでした。
なんと100〜1000分の一の生産効率!?「石臼挽き」へのこだわり
出迎えてくれたのは、社長の加賀健太郎さん。さっそくお話を伺いました。
「在来種というのは、その土地で昔から栽培されている、その土地固有の品種で、例えば平野部だと香りが強く山間部は甘い、などさまざまな特徴があります。今流通しているそばはほとんど「改良種」と呼ばれるもので、主には実を大きくし、また熟するタイミングを揃え、収穫の効率を上げるために品種改良されてきたもの。でも福井在来種は生育がバラバラ。でもその雑駁さが濃厚な味わいやナッツのような香ばしさに繋がり、また粒が小さい分味が濃厚、ということで近年注目されています」
父である先代の跡を継いで6代目社長を務める、加賀健太郎さん。言葉の端々から、そば粉づくりへのこだわりとプライドが伝わってきました。
左が改良種、右が在来種。改良種は熟するタイミングが揃っているのでおしなべて黒く、在来種には色のばらつきが。
「製粉会社としても、改良種の方が圧倒的に使いやすいのですが、味、香りは全く違うと言えるほど在来種の方がいいので、弊社では1年かけて、福井在来種に特化した工場へとリニューアルしたんです」
聞けば、全国1000社ほどある製粉会社のほとんどが、ロール製粉と呼ばれる機械製粉を主流にしている中、福井県は頑なに「石臼挽き」にこだわっているのだとか。しかしその分作れる量には歴然とした差が。例えば機械なら1時間に100kg〜1tできるところ、せいぜい1kgしか作れないのだとか。
なんと37台の石臼が黙々と蕎麦を挽き続ける工場へ
次に案内されたのは、37台もの石臼が稼働する現場。加賀社長によれば、それぞれ個性があり、その個性を活かしてお客様のニーズに応える粉を作り出すのが腕の見せ所なのだとか。
一つの石臼を作るのには、福井県の美山町で採れた「小和清水(こわしょうず)石」を20〜30年寝かせ、水分が抜けて歪みが出た後に成形してから目立て(挽く面に凹凸をつける作業)を行い、数年試し挽きをして、ようやく現場に投入するという気が遠くなりそうな時間がかかる。この工場では、中には150年以上経った年季ものも!
今では石臼の職人さんがいなくなってしまったため、ご自分で目立てをしているというから、筋金入りの「石臼のプロ」なんです。
東京都内でも、本場の越前そばが食べられる!
この恐ろしいほどのこだわりを家族にも伝えたい!特に、普段そばを食べない息子に伝えたら、きっと興味を持ってくれる…と思ったものの、やはり乾麺だと美味しさや香りの違いが出にくいそう。そこで思い出したのが、「ハーネス河合」の水戸守一さんが教えてくれた、東京で越前そばが食べられるお店「御清水庵 清恵(おしょうずあん きよえ)」の存在。食育の一環として、息子を連れて行きました。
お店に向かう道中、息子にちょうどこのブログ記事の内容を間で含めるように説明したところ、少し興味を持った様子。いざご対面!です。
私と妻が注文したのは超定番の「おろしそば」。本場と同じく鰹節とネギをトッピングしていただきました。妻はやはり東京で食べる蕎麦よりも太めでしっかりとした食べ応えに驚いたようで、「美味しい!」と大満足でした。
そして息子は、大根おろしが少し苦手なので、とろろそばを注文。食べられなかったときに備えて、ミニソースカツ丼をセットに。
恐る恐る口に運ぶと…「美味しい!」あっという間にペロリ。子どもなのでボキャブラリーは少ないものの、「完食」こそが何よりの証明です。
そしてなんと、人生初のそば湯まで「けっこう美味しい」と言いながら飲み干してくれました。
親として、子どもには少しでも好き嫌いをなくして、日本ならではの食の多様性を楽しんでほしいのが本音ですが、なかなか思うようには行かないもの。しかし今回のように、ストーリーを知り、そして本当に美味しいものに触れることで、そのハードルを越えることができるんだ、と改めて実感。
「まぁまぁ美味しかった?」と尋ねたら、「まぁまぁじゃないよ」とニッコリしてくれたその笑顔を見て、「福井のそばに出合ってよかった」と感動。食育、というほど偉そうなものではありませんが、地方の豊かな食文化に触れる、ということは子どもの成長にもいい影響があるのだな、と改めて感じました。
我が家は「今度は本場に行って食べようよ」と盛り上がりましたが、皆さんも、ぜひ一度福井のそばストーリーの一端に触れてみてはいかがでしょう?
取材・文/小松伸司