【働くMartミセス】仕事・育児・母の介護すべてを諦めずに叶えた幸せの形とは

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仕事と子育てを両立しているMart世代の女性にフィーチャーする「働くMartミセス」。今回ご登場いただいたのは仕事、育児、そして介護の3本立の生活に限界を感じ、ある決断を下した清水智子さん。新しい生活に踏み出した今の気持ちを聞きました。

【プロフィール】
清水智子さん(東京都在住)
リクルート「イクション事務局」に派遣勤務。
働くママを応援するプロジェクト内でPR業務を中心に派遣社員として、週 3.5日働く。生活が便利になるガジェットや、スマホのメモ帳機能にメモや書類を一元化するなど、生活 の効率化を推進中。夫と長男(6歳)、長女( 4歳)の 4人家族。
Iction! HP https://www.recruit.co.jp/sustainability/data/iction/

仕事・育児・母の介護 すべてをあきらめない
その選択が生む幸せの形

仕事と育児と介護の「3本立て」を可能にした
時短の週3.5 日出勤

先日、多様な働き方を紹介するセミナーを実施したのですが、途中で参加者たちの表情が変わる瞬間があったんです。自分たちのアクションが伝わったと実感できるとうれしいし、やる気につながりますね」

現在リクルートの「イクション事務局」で働く清水さん。イクションとは、〝育児〞と〝アクション〞を組み合わせた造語。妊娠・育児などのライフイベントがあっても可能となる、多様な働き方を創り出すプロジェクトだ。
「実は私自身が昨年、新卒以来16 年勤めた会社を退職し、リクルートスタッフィングの派遣スタッフとして専門性を生かし、短時間で働く『ZIP WORK』という働き方で就業しています」

業務内容は働き方に関するセミナーの企画やイクションに関するPR業務など。業務にはプロフェッショナルな知識と専門性が必要とされる。
「派遣とはいえ、これまで培った仕事スキルや仕事観を維持したまま働けるのでやりがいを感じています」

勤務形態は 16時15分までの時短。土・日に加え、毎週水曜の午後と金曜は休み。6歳と4歳の2 児の育児と並行して母親の介護も行う清水さんにとっては、このペースが最適だ。
「水曜の午後は家事に充て、金曜はホームに入居している母を見舞うとともに、一人暮らしになった実家の父に会いに行きます。働いていても育児と介護にも必要な時間を割けているので、ストレスがないですね」

順調なキャリアと育児
その一方で膨らんでいく母の「気がかり」なこと

新卒で大手玩具メーカーに入社。社会人としての洗礼を受けたのは、入社2年目で担当した子ども用化粧品の開発だった。直接子どもの皮膚に触れる化粧品開発には、品質保証の壁が厚く立ちはだかっていた。

「当時はまだ2年目で仕事経験も少なく、本当に商品化できるのか不安でいっぱいでした」
清水さんは当時自分が持っていたのは熱意だけだったと振り返る。けれどもその熱意を武器に、 少子化でおもちゃ市場が狭まるなか、新商品開発が必要なことを訴え続けた。

晴れて商品が発売になった日、店舗のレジには何十人もの小学生の女の子が商品を手に並ぶ姿が。
「感動して胸いっぱいになったことを今でも覚えています。世の中に訴え、ブームを仕掛けられることに、社会人として働くことの醍醐味を覚えた瞬間でした」

29 歳で結婚し、3年後に長男を出産。夫は育児に協力的で、保育園の送りも担当してくれる一方、会社もママ社員への理解が厚くスムーズな職場復帰となった。
「両立への悩みはまったくありませんでした。まさに広い道を歩けているという感覚でしたね」

順風満帆な清水さんだったが、 ひとつ大きな気がかりがあった。
「産後に里帰りしたときに、母の様子がおかしいことに気づいたんです」
母に手土産を渡したところ、数分後に「このお土産誰からいただいたのかしら?」と言われたのだ。
その後も物がなくなる、ケガをするといったことが増え、「アルツハイマー型認知症」と診断された。
第二子となる長女の出産と母親の診断のタイミングが重なったため、2年の長めな育休を取得。育児の傍ら介護も担う生活がスター トした。
「日々の細々としたことは実家近くに住む兄夫婦が担ってくれたので、私はケースワーカーとのやりとりやつらい思いを抱える父の話し相手となり、心のケアに努めました。

育休が明け職場復帰すると、清水さんを待っていたのは管理職への昇進。
「社内にはロールモデルとなる女性管理職もいたので、頑張ればできるかなと思いました。でも、私を取り巻く環境は甘くはありませんでした」

仕事の負荷が高まる一方で、子ども2人の育児もある。夫は育休期間中に転職をし、平日は出張で不在の日が多くなっていた。加えて、母の介護。平日は朝から晩まで全力疾走し、土・日は夫に子どもたちを預け、介護のために実家へ行くという毎日。休日に家族の生活を整える時間も取れず、クタクタに疲れ切っていた。そしてついに足元の生活が回らなくなった。
「出来あいの惣菜が頻繁に食卓に並ぶようになり、子どもたちも風邪を引きやすくなっていた状況のなか、『私の優先順位って一体どれだろう?』と自分に疑問を感じるようになりました」

かわいい盛りの子どもたちと一緒に過ごす思い出をつくるどころか、健康さえも守ってあげられない。
「もう限界でした。諦めて何か一つ手放そうと思いました」

キャリアを手放してもあきらめることはなかった
「働くことの楽しさ」

清水さんが決断したのは16 年勤めた会社を退職すること。「楽しい思い出がいっぱいの職場を離れるのは残念でしたが、家族の生活を守るために、他に選択肢はありませんでした」

「退職」は決意したものの、「働くこと」を手放したわけではなかった。
「仕事が好きで〝働く楽しさ〞までは手放したくなかったんです」

退職と同月から、それまで培った専門性を生かして今の職場で働いている。週休3.5日の時短勤務という柔軟な働き方を実現したことで、生活は大きく変わった。
「家事、介護、家族との時間を持てて、やりたいことがすべてできるようになり、自分のなかでモヤモヤした気持ちがなくなりました。家のことがしっかり回っているという充実感が幸せです」

一方、現在仕事で携わるのは多様な働き方を広める仕事。
「私自身の働き方を変えた経験を 生かし、多くの人が無理なく仕事が続けられる社会が実現できるよう力を尽くしていきたいんです」

働き方は変えても、働き甲斐は手放さない。そんな芯の通った選択をした清水さんだからこそ、仕事を通じ「働き方改革」へ大きな一石を投じてくれるに違いない。

【清水さんの仕事の日のスケジュール】
6:50 起床
7:00 朝食
8:00 出社準備(夫が子どもを送る)
8:30 戻った夫と家を出る
9:15 出社
16:15 退社
17:00 帰宅
17:15 子ども迎え
17:45 帰宅・夕食準備
18:15 夕食
20:00 入浴
21:00 寝かしつけ
21:30 家事後自分の時間
23:00 就寝

働き方を変えて手にした「普通で愛おしい」幸せ


 「働き方を変えて、大切な子どもたちとゆっくり過ごす時間ができるようになったのがうれしいですね」。

週末は近くの公園で過ごしたり、親子でお菓子づくりを楽しむ。「子どもたちが好きなお菓子や、夕食の餃子を一緒に親子でつくって楽しむゆとりある時間が持てています」。一見ありふれた親子の光景だが、こうした普通の時間の幸せを味わうことができるようになったことが、何よりもうれしいと清水さん。

「今年のバレンタインは、娘と二人で簡単なチョコをつくって夫と息子にプレゼントもできました。そんな時間がとても愛おしいです」

「予防家事」で掃除負担を大幅カット


「2年前に今の家に引っ越してきたときに、家をキレイなまま保ちたいと思い、汚れを溜めない&つけないようにする『予防家事』を始めました」。

例えばシンクには水をはじくコーティング剤を使用しているため、水垢がつかない。「コーティング剤は数年に一度塗り替えるだけなので手間いらずです」。

そのほかに、換気扇の上部はラップフィルムで覆い、棚の上には新聞紙を置くなど、普段見えない部分も定期的な掃除が楽に済むよう工夫が施されている。「汚れにくい環境を整えておけば、毎日は プラス1分程度の『ながら掃除』で済むので時短効果抜群です」

母の認知症というつらい現実
共に支えてくれる夫と歩く駅までの「大切な10分」 


「認知症は大切なことを忘れていってしまう残酷な病気です。病状が進んでいく母が最近、会話の途中で一瞬私のことがわからなくなってしまって。一瞬でも母に忘れられたショックはとても大きかったです」。

母、そしてつらい気持ちを一人抱える父を複雑な思いで支える清水さんが、唯一自分の気持ちを話せる相手が夫。「毎朝駅までの10分の距離を夫と歩きながら、話を聞いてもらっています。いちばん大変だった時期、私が介護に行っている週末、夫も子どもの世話を一手に引き受け大変だったはずです。でもそれらを一言も口に出さずに、黙って私の話を聞き続けてくれました。そんな夫にとても支えられています」

撮影/平林直己(BIEI) 取材・文/須賀華子  構成/長南真理恵

Mart2020年5月号 働くMartミセス より

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