手塚治虫のライフワークにして代表作「火の鳥」全12編から、地球と宇宙の未来を描いた「望郷編」が7年の歳月をかけて初のアニメーション映画化。2023年11月3日より全国公開中です。愛情あふれる主人公ロミの1,300年におよぶ壮大な冒険ファンタジーは、時代や惑星が変わっても色あせないテーマを教えてくれる、大人向けの作品です。
『火の鳥 エデンの花』あらすじ
荒涼たる辺境惑星エデンに1台のロケットが降り立った。わけあって地球から逃亡してきたロミ(声:宮沢りえ)と恋人のジョージ(声:窪塚洋介)は、この星を2人の新天地にしようと誓う。が、未開の惑星での生活は厳しく……ロミは一人息子のカインとAIロボットとともに、孤独なサバイバル生活に送ることになってしまう。
ロミはカインのために自分の命を少しでも引き延ばすこと決意し、コールドスリープに入る。だが、機械の故障で1300年間も眠り続けることに。ようやく目覚めたロミは、新人類が築いた巨大な町・エデン17の女王となる。
そんなある日、心優しい少年コム(声:吉田帆乃華)は、宮殿で悲しみに暮れる女王ロミと出会う。ロミの望郷の想いを知ったコムは、一緒に地球に行こうと、無謀な挑戦と知りながら、2人で広大な宇宙に飛び出していく。
旅の途上で、地球人の宇宙飛行士・牧村や宇宙のよろず屋・ズダーバン(声:イッセー尾形)、そして人智を超えた未知の生命体の数々との出会いを重ねながら、故郷の地球を目指す。
【見どころ①】先が読めないドキドキの冒険ファンタジー
物語は、地球から逃亡してきたロミとジョージが、水もない不毛な惑星・エデンに降り立つところから始まります。つまりジャンル的にはSFなのですが、アニメーションだからこそ違和感なく受け入れることができ、二人はこれからどうなるのかと早くも作品世界に引き込まれます。
そこから95分間、宇宙を舞台に1300年もの時を超え、惑星を巡り、いくつもの思いがけない出会いがあって……ロミの前に次から次へと試練がやってきて、先の展開が読めずにハラハラドキドキ。まったく飽きずに「どんなラストにつながるんだろう」と気になるばかりです。
とはいえ、原作がある作品なので読んでいる方はある程度先も読めると思うかもしれません。が、映画は原作のエッセンスは大切にしながら現代アニメーションならではのオリジナル脚本になっているので、ほとんどの方が新鮮な気持ちで驚きをもって観ることができるはずです。
筆者自身、中高生の頃に「火の鳥」を読んだのは覚えているのですが、正直当時の私には内容が難しくて重く感じていて。今回大人になってからこのアニメ映画を観て、改めてわかることや発見が多く楽しめました。
【見どころ②】力強く愛情深い女性・ロミの物語
製作スタッフがこの映画を「ロミという力強い女性の物語にしたい」と決めた通り、どんな境遇にあっても未来を見すえるロミの姿はかっこよく、勇気をもらえます。宮沢りえさんの、やわらかく優しいけど芯の強いまっすぐな声が、ぴったりハマっています。
そしてロミは、地球から一緒にエデンへとやってきたジョージを愛し、一人息子のカインを愛し、地球もエデンのことも大切に思う愛情深い女性でもあります。描かれているのは宇宙というスケールではありますが、生まれた場所も育った場所も大切に思い、子どもや子孫にとっての未来をより良くしようと考える気持ちに共感できます。
【見どころ③】時代を超えても色あせないテーマが胸に迫る
マンガ「火の鳥」シリーズでは生と死、輪廻転生をテーマに、繰り返す戦争、環境汚染、不老長寿や宇宙への憧れといった部分がクローズアップされていて、今作でもそこがしっかりと描かれています。現代社会を見ても、世界中で人類のやっていることは変わらず、皮肉にも手塚治虫が掲げたテーマがまったく色あせていないことがわかります。
作品タイトルにもなっている「火の鳥」は原作コミックでは饒舌で、ある意味逃れられない悲しみや手塚治虫の哲学の象徴のような存在にも感じますが、映画での火の鳥の登場の仕方にはすごく工夫を感じました。充実した内容のスピーディーな展開に水を差すことなく、でも「火の鳥」のテーマはしっかりと伝わるような登場シーンになっているのではないでしょうか。
あまりネタバレしたくないのでこのへんで……。大人こそ、ママにこそぜひ観て欲しいアニメーション作品です。
文/富田夏子
作品情報
『火の鳥 エデンの花』
全国公開中
監督:西見祥示郎
声の出演:宮沢りえ、窪塚洋介、吉田帆乃華、イッセー尾形 ほか
原作:手塚治虫「火の鳥」(望郷編)
キャラクターテザイン・総作画監督:西田遠三
脚本:真野勝成・木ノ花咲
プロデューサー:田中栄子
アニメーション制作:STUDl04℃
製作:「火の鳥エデンの花」製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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