第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『怪物』が6月2日から全国公開中です。『万引き家族』(2018)『ベイビー・ブローカー』(2022)などでカンヌ常連の是枝裕和監督が、脚本家の坂元裕二とタッグを組んだ作品。音楽を担当したのは今年3月に逝去した坂本龍一で、書き下ろし2曲を含む楽曲を提供。今作が最後に関わった映画劇伴となりました。
2人の少年を中心に、それぞれの家庭や学校生活に関わる人達を、3つの視点から描き出したサスペンスタッチのヒューマンドラマ。見どころをご紹介します。
『怪物』あらすじ紹介
大きな湖のある郊外の町で暮らすシングルマザーの麦野早織(安藤サクラ)と11歳になる息子の湊(黒川想矢)。湊の言動から学校で教師からモラハラを受けているのではと考えた早織は学校へ行き、伏見校長(田中裕子)に、担任教諭の保利先生(永山瑛太)と湊の様子を問いただす。が、校長はどこか心ここにあらずで、学年主任の品川(角田晃広)は早織をなだめるのに必死。保利先生から謝罪を受けるも、明らかに不満げな様子にさらに不信感を募らせる。
保利先生から湊の友人関係の話として同級生、星川依里(柊木陽太)の名前を出され、本人に会いに行く早織。モラハラの件は次第に話が大きくなり、学校全体やマスコミを巻き込む問題に発展する。やがて巨大な台風が近づくある朝、湊は突然姿を消した。
【見どころ①】視点を変えた3部構成の脚本が見事!
普段は自身で脚本から手掛ける是枝監督が、28年ぶりに自分以外の脚本で映画を製作したことも話題となった今作。その脚本を手掛けたのが、今回カンヌで脚本賞を受賞した坂元裕二さんです。坂元さんといえば、『東京ラブストーリー』(1991)などのトレンディドラマの脚本家として知られ、近年では『Mother』(2010)といった社会派ドラマや、『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021)などひねりの効いた大人ドラマの名手としても有名。
そんな坂元さんが書いた『怪物』は、母親目線、教師目線、子ども目線の3部構成。同じ出来事でも視点を変えるとこんな風に見えるんだ、という驚きの連続が最後まで続くので、ドキドキしっぱなしです。
【見どころ②】子役からベテランまで絶妙なキャスティング
物語の中心となる2人の少年を演じたのは、黒川想矢くん(13歳)と柊木陽太くん(11歳)。2人ともオーディションで選ばれ、映画には初出演。会見の様子など見ていると、演技について「なかなか役が抜けずに苦しかった」という黒川くんに対し、柊木くんは「悩まなかった」とまっすぐ明るい様子で対照的。そんな姿が、自分の気持ちを持て余す繊細な少年・湊と大人の気持ちを推しはかりながらも無邪気な少年・依里にもどこか重なります。
湊の母で息子を大切に思うシングルマザーを演じたのは、安藤サクラさん。息子の様子がおかしいことに心を痛めながらも問題に向き合おうとする姿には共感ばかりでした。
正体不明な怪しい担任教諭を演じていたのは永山瑛太さん。彼の正体がわかるにつれて物事の見え方がガラリと変わります。何を考えているかわからない不気味な校長先生役の、田中裕子さんの“怪演”もさすが。2人の姿を通して、人は多面的なのに、結局は自分が見たいようにしか誰かの一面を見ていないんだろうな、ということに気づかされます。
【見どころ③】少年たちのその先に余韻を残すラスト
「怪物だーれだ」
少年達が何度か口にする言葉が、その度に観客に突き付けられます。いったい、怪物とは何なのか? そして私達にとっての怪物とは? 少年たちの明るい未来を祈り、それが実現できる社会の姿を願わずにはいられないラストシーンまで、スクリーンから目が離せません。
文/富田夏子
作品情報
『怪物』
全国公開中
- キャスト:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 / 高畑充希 角田晃広 中村獅童 / 田中裕子
- 監督・編集:是枝裕和『万引き家族』
- 脚本:坂元裕二『花束みたいな恋をした』
- 音楽:坂本龍一『レヴェナント:蘇えりし者』
- 企画・プロデュース:川村元気 山田兼司
- 製作:東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福
- 公式サイト:gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/
©2023「怪物」製作委員会