「食べられるものが少ない!」のは、どうしたらいいのでしょうか。
発達相談員:ひだ ゆう
ひだゆうさんは、現役の発達相談員さんです。日々、さまざまな相談を受けているそうですが、なかでもいちばん多いのが「食の悩み」だといいます。
「食」は毎日のこと、そして、成長に関わることだと思うから気になりますし、簡単なものでも時間をかけて作ったものを食べてもらえないことはショックでもあります。
けれども、ひださんは、”幼児に偏食はない”とおっしゃいます。どういうことでしょうか。
こんにちは。ひだ ゆう です。
ぼくは、現在、ある政令指定都市で、2歳から小学校入学前のお子さんを対象に、「発達相談」を15年ほど担当しています。
「発達相談」とは、精神発達の状況を含め、
「うちの子、いつもトイレのドアを開けっぱなしで困ります!」「幼稚園でお友だちがなかなかできず心配」「トイレトレーニングが進まないなぁ」等々、日々の子育ての悩みを保護者と一緒に考える場です。
もっとも多い幼児期の悩みは「食」
子育てというものは、やってもやっても悩みはつきないもの。発達相談の中でも、日々、さまざまなお話をお聞きしています。
その中でも、圧倒的に多いのは、「食」に関する相談です。
もっと具体的に言うと、「お肉とポテトフライしか食べない」「白米とみそ汁しか食べない」というような、「食べられるものが少ない」という相談です。
この「食べられるものが少ない」という訴え・悩みは、相談員になってから現在まで、一年中、コンスタントに多い相談です。
相談員になりたての頃は、「同じような相談が続くな」と思ったものですが、そのうち、この相談内容は幼児期特有のもので、だれにでもありえる悩みであるとわかってきました。
ぼくは元保育者で、絵本をよく見るのですが、とある絵本を見たとき、これはお母さんの心理をよく表しているなと思いました。
食べられない子どもをつい叱ってしまう、そして、そのことによって、子どもはますます食べたくなくなる。
この描写は、複雑・深刻な食の悩みの問題を表していると感じながら読みました。
子育て真っ最中のみなさんには、大いに共感できるのではないでしょうか。
では、「食べないのは、なぜなのか?」「どうしたらいいのか?」
地域の管理栄養士さん、調理員さんたちとも勉強会を重ね、多くのことがわかってきました。
今回は、実際の相談例を紹介し、幼児期の食の問題をどう考えたらいいのか、お話させていただきます。
なぜ、「食」の悩みは、複雑・深刻になりやすいのか
「3歳上のお姉ちゃんはなんでも食べてくれますが、Aちゃんは、ふりかけご飯とお肉とポテトばかり。他のおかずは食べようとしません。こんなにがんばって作っているのに、どうして食べてくれないのか悩み、私自身も落ち込んでしまう毎日です」
このお母さんは管理栄養士の資格をもち、料理作りが趣味の方。毎日の食事も、栄養をよく考え子どもが喜ぶような工夫をして作っています。それなのに、実際は食べてくれません。
保護者が食の問題で悩むのは、「栄養のある物を食べてほしい」「野菜も食べてほしい」「健康に育ってほしい」という、我が子のすこやかな成長を願っての当然の思いからですよね。
そして、子育てをしっかり考えているまじめな保護者ほど、「自分の調理の仕方に問題があるのでは」「もっとおいしく調理できたら食べてくれるのでは」と自分を責めたり、周囲から聞こえる親への批判的な声にストレスを感じたりしています。
子どもの健康を願う気持ち。自分のがんばりが報いられない思い。そして、食べても食べなくても、日々、繰り返される食事の時間。
人は食べないではいられませんから、まじめな保護者ほど、「食」の悩みは複雑・深刻になりがちです。
いまは、ふりかけご飯とお肉とポテトだけでもだいじょうぶ。
まずは、そんな風にもう少し肩の力を抜きましょう。
そして、お子さんと、少しでも楽しい食事の時間をすごしてください。
今日、明日、という短期的な成果を期待しすぎず、小学生になったあとまで長期的に見ていくことが大切です。
また、この方のように、兄弟姉妹でくらべて悩んでいる方も多いです。
兄弟姉妹や双子でも性格がちがうように、味覚もちがいます。同じように育てても、食べない子は食べません。
性格の違いは理解できても、食べられないことの違いは、理解されにくいようです。
お友だちはもちろん、兄弟姉妹と、くらべないようにしましょう。
「食べるのは、肉、揚げ物、カレー、ハンバーグ。カレーやハンバーグに他の食材を混ぜて食べさせるようにしています。毎日このローテーションですが、こんな食事はいつまで続くのでしょうか? 不安です……」
幼児期に“偏食”はない
今は、このローテーションでだいじょうぶです。そして、食べなくてもいいので、たまに苦手な食べ物も少しだけお皿にのせてみてください。家族がおいしそうに食べているのを見て、食べてみようかなと思える時があるかもしれません。今後、食の経験が広がることで食べられる物は少しずつ増えます。
地域の管理栄養士さんから、「幼児期は、まだ味覚が成長段階なので、幼児期には“偏食”という言葉は使いません」と教えていただきました。
味覚が完成するのは小学校高学年くらいであり、その頃になると、身体の成長期とも重なり、食べられる量・種類は増えるとのこと。
幼児期に多い食の悩みの相談は、入学後にぐっと少なくなることは小学生担当の相談員からも聞いています。
ぼくの今までの保育や相談経験からも、「食べられないピークは幼児期であり、その後、食べたり食べられなかったりを繰り返しながら、少しずつ食べられるものは増える」と実感しています。
「保育園の先生からは、『お母さん、Bちゃん給食を全然食べてくれません。自宅でがんばってくださいね』と言われます。ずっとがんばっているんだけどなぁ……。こんなに食べられないのはうちの子だけ?」
食が細くてもだいじょうぶです。少しでも食べさせようと必死にならないでください。それよりも、食事の時間が、お子さんや、いっしょに食べるご家族にとって、楽しい雰囲気になるように心がけてくださいね。
「こんなに食べられないのは、うちの子だけでは?」と思っているお母さん、お父さんは少なくありません。
ですが、もし今、そう思っている方がいるとしたら、是非とも安心してほしいのです。食が細いのはあなたのお子さんだけではありません。
子育て真っ最中の多くの方が、同じように思っているということをまずは知ってください。悩んでいることは、周囲には言わない(言えない)だけです。
食に限らず、「子育てや家庭の事で悩んでいる」ということは周囲の人には知られたくないという人は多いのです。相談者の秘密を守る義務のあるぼくには、多くの相談が寄せられています。
食の問題は、「特別な問題」ではありません。それは「ごく普通の子育て」の中にある一つの姿であり、多かれ少なかれ、一時期、多くの子どもたちが通る道なのです。
「栄養を考えて野菜やシイタケを入れたチャーハンは、苦手な物だけきれいに残して食べます。細かく刻んで出しても、気づくとぺっと吐き出します。特に野菜はまったく食べてくれず困ってしまい、つい叱ってしまうことも多くなります」
「楽しい雰囲気」は、おいしさの調味料
細かく刻むのは有効な方法で、カレーやハンバーグにも同じように細かく刻んで混ぜ込むのをすすめています。
それでも残すようなら無理には入れず、混ぜ込む量を少なくする、時々にしてみる、などを試してみてください。
「天気のいい日に外で食べるご飯はおいしい」「気の合う人と楽しく会話しながらの食事はおいしい」という経験はだれにでもありますよね。
「味」は舌から受容しますが、「おいしさ」は、味とともに、環境・雰囲気・その時の快や不快など、それまでの食の経験が総合的に合わさり、最終的に脳で判断されます。
ですから、楽しい食事は大切なのです。
「食べてほしい」という気持ちで頭がいっぱいになってしまうと、つい、口調や表情がけわしくなっていませんか? それでは食事が楽しい場ではなくなってしまします。
余裕のある時には、食べてほしい気持ちは少しおいておき、親が楽しくおいしそうに食べている姿を見せることも、大切な、有効な、食育です。
「どんなにおかずを用意しても納豆と白ご飯しか食べません。でも、お菓子は大好きです。夫や実母からは、私の料理の仕方に問題があるような言われ方をします。私は料理は得意ではありませんが、がんばって作っているつもりです。子どもが食べないのは、私のせいなのでしょうか? 悲しいです」
親の調理の問題ではない
当面は、食べられる納豆と白いご飯でだいじょうぶです。納豆やご飯に限らず、「今食べられる物でこの時期はしのいでいく」ことが大切です。
ただし、お菓子は健康面からもできれば制限は必要です。食べる時間や量は子供に任せるのではなく、約束を決めて保護者が管理するのが理想です。
子どもが食べられない時、それは親の「調理」や「がんばり」の問題である、と周囲から指摘されることが少なくありません。
それは違います。
どんなに有名な料理人が作った食事でも、食べない子は食べません。
食べられないのは、あなたの責任ではなく、成長にかかわる子どもの側の都合です。
何でも食べられるような身体の機能がまだ整っていませんよ、ということです。
繰り返しますが、極端な感覚過敏がなければ、年齢が上がるにつれ、徐々に食べられるものは増えます。
できることはやりながら、子どもの成長を“待つ”ことが大切です。
甘味・塩味・うま味は、生きていくために最低限必要な栄養が含まれ、おいしい味として脳に組み込まれています。一方、酸味・苦味は、腐敗・毒として認識し、避けるべき食べ物として脳に組み込まれています。
これらは、生命を維持するために生まれつき身体に備えられているものです。
ですから、「野菜は苦手で、お菓子は大好き」なのです。
味を受容する舌のセンサー、味蕾(みらい)は、乳幼児期に最も多く、成長と共に少なくなります。ですので、酸味・苦味も年齢とともに食べやすくなり、食の経験が広がる中で徐々に食べられる物は増えます。
ご自分の経験でも、子供の時には食べられなかったものが、大人になり食べられるようになったり、好きになったりしたものはあるのではないでしょうか。
食べられる物を少しずつ増やすことは大切ですが、あまり心配し過ぎず、今できることを無理ない程度にやりつつ、味覚の成長を待つことが大切です。
責任感を少しだけ脇において、食事の時間をお子さんと楽しんでくださいね。
※守秘義務のため、実際の相談内容や個人情報は変えています。文中のイメージ写真/photo AC
乳幼児期に食べられる物が少ないのは自然なこと
苦手なたべものをなんでも食べてくれる”ポケットはん”。調子にのっためいちゃんがどんどん食べてもらうと……。
いま苦手な食べ物があっても、たくさんは食べられなくても、それを親子でいっしょに「まあ今はいいか」と笑えるような環境だといいですね。こんな絵本を一緒に読むのも、気分を変えるきっかけになるかもしれません。
監修/ひだ ゆう
発達相談員。ある政令指定都市で、2歳から小学校入学前のお子さんを対象に「発達相談」を15年ほど担当。元保育士。保育所や幼稚園を巡回する日々。公認心理師。修士(学校心理学)。日本保育学会&日本教育心理学会会員。
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ブログ http://cpp7.net/
本記事は【Mart×コクリコ パパママ応援プロジェクト】の一環としてコクリコの記事を転載したものです。
コクリコ2021年8月14日公開より