薬剤師と食育教室講師のWワーク。働くMartミセスの新たな夢とは

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仕事と子育てを両立しているMart世代の女性にフィーチャーする「働くMartミセス」。今回、お話を聞かせてくださったのは、子育てをしながら薬剤師と食育教室講師のWワークを実現している石井千賀子さんです。

憧れを実現させて就いたやりがいのある仕事。その一方で、状況は予期せぬ方向に動いて…。多くの現実を乗り越える過程でつかんだ新たな夢と、今の思いを聞きました。

【プロフィール】

薬剤師兼食育教室講師 石井千賀子さん
薬剤師として、週に2~3日、在宅患者向け調剤薬局に勤める。一方、今年の6月から自宅で子ども向けの食育教室「青空キッチン」を開く。趣味は料理。日曜の夕食と、毎日の息子たちのお弁当づくりが目下の楽しみ。夫と2人の息子(6歳、4歳)の4人家族。

支え続けたいのは医療と子どもの未来。武器は資格と母であること

薬剤師のパートと自宅で開く食育教室。Wワークがいいバランス

「『教えてもらったとおりに薬を飲むタイミングを変えたら、ぐっすり眠れて、日中眠くなることがなくなったよ』などと患者さんから言われると、役に立てたと実感できてうれしくて」。6歳と4歳の息子を育てながら、薬剤師として薬局で働く石井さん。週に2〜3日パートとして働くようになり今年で3年目だ。「勤務先は、老人ホームなど施設の入居者用の薬を準備して、まとめて届けるという在宅向けの薬局です。患者さんが次々と来局されるわけではないため時間的余裕もあり、子どもの病気のときも調整がきき、働きやすい環境です」

資格を生かした仕事と育児を両立させている石井さんだが、今年の6月からはさらに自宅で「青空キッチン」という食育教室を開いている。「教室は母親として以前から興味を持っていた食育や幼児教育の実践の場です。イキイキとした表情で料理に取り組む子どもたちとのレッスンはとても楽しい時間です」

薬剤師、食育教室の先生と忙しい毎日だが、石井さんにとってはいいバランスだそう。「週に数回薬剤師として働くことで、社会の一員だという実感が持てる一方で、教室は母親としての自分を生かした仕事。自己実現もできる毎日はとても充実しています」

予想外の妊娠と母の死。立て続けに動く現実。30歳で仕事を再開

中高時代から医療現場で働くことを夢見ていた石井さん。大学は薬学部に進学した。学生時代の研修で、チーム医療(※1)に参加できる大学病院での薬剤師の仕事にやりがいを感じ、卒業後は大学病院に勤務。薬剤師として順調な滑り出しだったが、1年経ったころ妊娠がわかり、結婚。夫は学生時代からつき合っていた同じ病院に勤める医師。若かった夫は当直も多く、帰宅も明け方という激務だった。

「やりがいのある仕事がスタートしたばかりだったので、正直仕事は続けたかったです。でも、激務の夫の育児サポートが得られないとわかっていたなかで、仕事をしながらワンオペ育児(※2)をする自信はありませんでした」。姉の子育てを見て育児の大変さは実感していただけに、中途半端な選択はできなかった。「資格があるのだから出産してまた職場に戻ればいいと自分に言い聞かせ、仕事を辞めました」

断腸の思いでの退職だったが、結果的にこの決断は正解だった。「実は当時、母が末期の癌だったんです。あとから振り返れば辞めたことで母に十分寄り添うことができてよかったと思います」

母の入院先は当時勤務していた病院で、仕事の合い間に様子を見に行っていた。出産後は、入退院をくり返していた母の通院が便利になるようにと自宅に呼び寄せ、病状が悪化してからは入院した母の病室に息子と日参する日々。「母のことで頭がいっぱいで、妊娠の不安とか育児ストレスなど感じている暇もありませんでした」

息子が10カ月のときに母が他界。「悲しいことでしたが、母の最期を見届けることができたし、息子の顔を見せてあげられたことがせめてもの救いでした」。そして、半年後に次男を妊娠。「すべてのことが立て続けに起こったので、当時は仕事のことを考える余裕はありませんでした。次男の育児については忙しすぎて記憶もないくらいです(笑)」

そんな日々も落ち着き、何となく求人サイトを見ていると近所にいい求人があった。登録するとエージェントから連絡があり面接に行くことに。「このときエージェントの面接官に『4年もブランクがあるんですね』と言われたのがショックで。いつでも仕事に戻れると思っていたのですが、プロの目には『4年も』と映るんだなと思うと焦りました」

当時長男は幼稚園の満3歳児クラスに通っていた。次男を一時保育に預ければ週に数回働ける。状況的にできるならやってみようと30歳で仕事を再開した。

投資先は自分。稼いだお金でつかんだ次なる未来への夢

薬局の仕事にも慣れてきたある日、たまたま「日本キッズ食育協会」のHPを見かけた。一定の講習を受けて資格を取ると「青空キッチン」という食育教室を開くことができるという内容だ。「医療に関わるなかで、子どもたちにアトピーや喘息などが増えていることは知っていました。こうした状況にあって、子どもたちの生涯健康を支えるうえで大切なのは食だという私の考えに、『青空キッチン』はピッタリだったんです」

趣味の料理を生かしつつ、興味のある食育を仕事にできるチャンスはまさにこれだと思い、次男が幼稚園に入るとすぐに受講を開始した。「実はこの受講費用に充てたのが、薬局で稼いだパート代でした。夫に言えば受講費は出してくれたと思います。でも自分の自由になるお金があったから躊躇することなく踏み出すことができました。もともと自分のパート代は生活費ではなく、いざというときに使いたいと思っていたので、そういう意味でも、納得のいく投資先が見つかったという感覚でした」

今年の6月から、まずは息子たちを生徒に「青空キッチン」を開始。実際に新しい生徒が入ってのスタートはまさにこれから。「薬剤師の仕事と食育教室は私にとって〝車の両輪〞です。学んできた医療の知識で人の役に立てるのはうれしいし、そのためのスキルも上げていきたい。そのうえでそこから入るお金を自己投資して、『青空キッチン』で自分の未来を広げていくというのがすごくいいバランスなんです」

この先は教室の仕事を増やしていきたいという石井さん。「子どもたちが将来、親の手を離れてもきちんとした食生活を送る力を身につけられるよう、食の底上げに貢献していきたいんです。夢は予防医学と食育との相関性を学問として確立していくことですね」。自分の力で切り拓く夢だからこそ、夢だけでは終わらせないという本気の覚悟が感じられた。

※1 チーム医療→一人の患者に対して、医師や看護師、医療ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士など複数の医療専門職が連携して治療やケアに当たること。
※2 ワンオペ育児→「ワンオペレーション育児」の略。パートナーの単身赴任や残業などで、夫婦のどちらか一方に家事・育児の負担がかかる過酷な状況を指す。

【石井さんの仕事の日のスケジュール】

6:00 起床・弁当準備
7:00 息子起床・着替え
8:30 息子たちを幼稚園へ送る
9:00 薬局に出社
14:00 退社
14:15 幼稚園お迎え
15:00 息子の習い事・送迎
17:00 帰宅
17:30 入浴
18:00 夕食
19:00 息子たちと遊ぶ
20:00 寝かしつけ
21:00 家事や教室準備
23:00 就寝

自宅で開く食育教室は子どもの未来を支える時間


6月から自宅で開講した「青空キッチン」。子どもたちと料理をしながら、途中で数の確認など年齢に応じた「ワーク」も実施。「料理に取り組むことで、子どもたちはメニューを読み解く力や計量するために数字を読む力、さらに段取りを整える力など総合力が鍛えられるんです」。レッスンを通じて感じるのは子どもたちのイキイキとした表情と好奇心だという。「お鍋でご飯を炊いて、蓋を開けたときの『わぁ!』という反応や、包丁を握ったときの真剣な眼差し、完成したときの『できた!』という表情が最高なんです」。ピーマン嫌いの次男も、自作のナポリタンに入っているピーマンなら抵抗なく食べられるようになるなど、レッスンごとに成長が見られる。「子どもたちも楽しそうだし、さらにこの時間が、子どもの未来を支えることにつながっていると思うと、とてもうれしいです」

お掃除ロボットが解放してくれた時間と心の余裕


薬剤師の仕事と「青空キッチン」のダブルワークをこなす石井さんにとって、力強い味方がロボット掃除機。「わが家はダイニングの床が白いタイルなので、掃除をしないと汚れが目立ってしまうんです」。以前は毎日拭き掃除を欠かさなかったというが、ダブルワークの今はそのような時間はなかなかない。そこで導入したのが「ブラーバジェット」。「高価なものなので、買ってみたけど使えなかったら残念だなと思って、1週間お試しでレンタルしてみたんです。そうしたら想像以上の働き者で(笑)、購入を決断しました。今では欠かせない相棒ですね」。その後、実家で使わなくなったという「ルンバ」ももらい、2台のロボット掃除機が家中をくまなく掃除してくれる。「毎日掃除に追われなくていいので、気持ち的にも余裕ができるし、時短効果も抜群です」(石井さん)

楽しみは日曜の夕食づくりとたまにする夫とのデート


料理が趣味の石井さんにとって、楽しみは日曜の夕食。「夫が息子たちを見ていてくれるので、食事づくりに没頭できるのが贅沢な時間なんです」。よくつくるのはエスニック。日曜の夕食は大人仕様で、辛くしたいときや香辛料を入れたいときは、子どもには別途カレーなどを用意するという徹底ぶり。メニューに合わせてアジアのビールなど飲み物を揃え、雰囲気を盛り上げるための工夫も楽しむ。「できる範囲でテーブルコーデをして、SNSにアップしています。夫も日曜の夕食を楽しみにしてくれているようなので、張り合いもありますね」。そんなご主人との仲良しの秘訣は「たまのお出かけデート」。息子たちが寝たあと、2世帯住宅の義父母に子どもが万一起きたときのケアをお願いし、夫婦で近所の店へ。「家で話していると家事をしたくなってしまい、『ながら』トークになってしまいますが、お店だとしっかり向き合えるので会話も弾むんです」

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撮影/平林直己(BIEI) 取材・文/須賀華子 構成/タカノマイ(Mart編集部)

Mart2019年11月号 「働くMartミセス」より

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