スタジオポノックのアニメーション映画『屋根裏のラジャー』が12月15日(金)より全国公開中です。『メアリと魔女の花』以来6年ぶりの新作長編アニメとなる今作は、子どもも大人もそれぞれの見方で楽しめる冒険ファンタジー。ネタバレなしで見どころを紹介します。
『屋根裏のラジャー』あらすじ
自由に空を飛び、星を追いかけるラジャー(声:寺田心)。彼の姿は、世界の誰にも見えない。なぜなら、ラジャーは愛をなくした少女アマンダ(声:鈴木梨央)の想像の友だち《イマジナリ》だから。しかし、イマジナリには、人間に忘れられると消えていく、という運命があった。
アマンダに起きたあることをきっかけに、失意のラジャーがたどり着いたのは、かつて人間に忘れさられた想像たちが身を寄せ合って暮らす《イマジナリの町》だった。そこで猫のジンザン(声:山田孝之)やエミリ(声:仲里依紗)と出会ったラジャーは、大切な人と家族を守るための冒険に出ることを決意する。
【見どころ①】見る人によって受け取るメッセージが変わってくる
本作はアニメーションとして大人も子どもも楽しめる冒険ファンタジーでありながら、人によって視点や見方が変わるところに魅力があります。
物事の本質を突くようなセリフが多いのが、ラジャーをつけ狙う謎の男、ミスター・バンティング。「人は自分の見たいものを見たいように見る」「それはそっち側から見た景色だ」というような言葉で、置かれた立場によって見たいものや見え方が違うことを伝えています。
そのまま言葉通りにとらえることもできるのですが、想像力の欠如から人を傷つけてしまう現代社会への皮肉にも受け取れます。例えば、見えない人=自分に関わりのない人としてネットでバッシングする言葉を書き込むSNSの世界など。
個人的には、サン=テグジュペリの『星の王子様』の言葉、「ものごとは心でしか見ることができない。大切なことは目には見えない」「おとなは、だれも、はじめは子どもだった。しかし,そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない」に通じる深いメッセージを感じました。
【見どころ②】日本初の技法を取り入れた新たな手描きアニメーション
スタジオポノックは、手描きのアニメーションにこだわるスタジオ。そして今作では光と影の表現方法に着目し、新たなデジタル技術を用いたフランスのクリエイターたちとコラボ。日本初となる手法で、手描きアニメをさらに進化させています。
制作期間にコロナ禍を経たこと、この新たな試みが加わったことで、映画の公開は1年以上延期に。そのためスタジオポノックは倒産の危機に陥ったことを、プロデューサーの西村義明氏は取材で明かしています。
そこまでしてこだわった映像は、特にイマジナリの世界で存分に発揮されています。冒頭のラジャーの登場シーンは本当に美しく、新しいアニメーションの広がりを感じました。
【見どころ③】日本を代表する俳優陣が声のキャストとして集結
声のキャストの豪華さも、公開前から話題に。主人公のラジャーの声を演じた寺田心さんは、アニメーション映画初参加。ラジャーを生み出した少女アマンダ役に、ポカリのCMでもおなじみの鈴木梨央さん。お二人とも子役からずっと活躍されています。
アマンダの母リジーは安藤サクラさん、イマジナリの町でラジャーが出会う少女・エミリ は仲里依紗さんと人気女優が声の競演。ラジャーの前に現れる怪しげな猫・ジンサンは、“4度目の猫の声”を演じる山田孝之さん。
個人的に印象に残ったのは、ラジャーをしつこく(本当にしつこい!)つけ狙う謎の男ミスター・バンティングの声を演じたイッセー尾形さん。怪しさ満点の声ですが、一言ひとことに重みがあります。
美しい映像や声の演技を純粋に楽しむのも良し、冒険ファンタジーにワクワクするのも良し、奥深いメッセージを読み取ろうとするのも良し。色んな楽しみ方ができるアニメーション映画、冬休みに親子でぜひ。
取材・文/富田夏子
作品情報
『屋根裏のラジャー』
全国東宝系にて公開中
- 原作:A.F.ハロルド「The Imaginary」(「ぼくが消えないうちに」こだまともこ訳・ポプラ社刊)
- 監督:百瀬義行
- プロデューサー:西村義明
- 制作:スタジオポノック
- 声の出演:寺田 心 鈴木梨央 安藤サクラ 仲 里依紗 杉咲 花 山田孝之 高畑淳子 寺尾 聰 イッセー尾形
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