【NEWSな言葉】てまえどり

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最近、コンビニなどで「てまえどり」のポップを見かけます。すぐ食べるものなら賞味・消費期限が短い手前のものから買うことで、食品ロスを減らす狙いがあります。こうした施策で私たちがハッとさせられることで、食品をムダにしない行動が広がっていくのでしょうか? 経済学者・安田洋祐さんに解説していただきました。

「てまえどり」とは?

すぐに食べるものを買うとき、棚の手前にある賞味期限や消費期限が短い商品を買うこと。「てまえどり」を心がけることで、賞味期限や消費期限が切れて捨てられる食品を減らすのが目的。

「てまえどり」で効果があるのはなぜ?

キャッチコピーの工夫で「手前から取ることで食品ロスを減らせるんだ」と気づかせ、そのように行動しようと思わせることができるため。これは、心理学×経済学の行動経済学で「ナッジ」と呼ばれるもの で、ちょっとしたきっかけで相手によりよい選択を促します。

安田洋祐さんが考える「てまえどり」で何が起きる?
■食品ロスに関する気づきを与えることで消費者の行動が変わる
■賞味・消費期限に応じて価格を変えるなど行動定着の工夫が生まれる可能性も

自発的に行動を変える後押しをする効果が

近年大きな問題となっている食品ロス。日本の食品廃棄物等は年間2531万トンで、そのなかでも食べられるのに捨てられる食品の量は年間600万トンにも及びます。なんと、1人当たり毎日お茶碗1杯分の食べ物を捨てている計算になるのです。
そこで、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会、消費者庁、環境省、農林水産省は連携して食品ロス削減に向けたキャンペーン「てまえどり」を呼びかけています。この活動は、小売り店舗の商品棚の奥にある賞味・消費期限が長い商品ではなく、手間にある賞味・消費期限が短い商品を買うことによって、廃棄される食品を減らすことを目的としています。
「てまえどり」というシンプルでわかりやすい名前には、経済学でナッジ(Nudge)と呼ばれる効果が期待できます。ナッジとは「ひじで軽くつつく」という意味の言葉。人々が意思決定する際の環境をデザインすることによって、自発的な行動を望ましい方向に後押しする仕掛けのことを指します。「てまえどり」という言葉が普及することで消費者に食品ロスに関する気づきを与え、すぐ食べるのであれば“賞味・消費期限が短い商品を積極的に買おう!”と思ってもらおう、というわけです。

一過性のものにせず定着させる工夫も必要

しかし、「てまえどり」をしっかりと定着させていくためには、もっとわかりやすいメリットを提供する必要があるでしょう。すでにコンビニなどでは、賞味・消費期限が短いものにポイントを加算するなどの取り組みが始まっていますが、商品の価格自体をホテルや航空券のように変動させる「ダイナミックプライシング」も効果的。賞味・消費期限が短い商品はレジで自動的に値引きされるなどのシステムがあれば、値札の貼り替えといった手間や人的コストをかけずに柔軟な価格変更ができそうです。
こういった工夫は、売れ残りを減らすことができる店側だけでなく選択肢が増える消費者側にもよい結果をもたらすでしょう。食品ロスは日本だけでなく、世界的な問題です。「てまえどり」をきっかけに、日本国内で食品ロスへの意識がさらに高まることを願っています。

今回解説いただいたのは


安田洋祐さん
経済学者。専門はゲーム理論。政策研究大学院大学助教授を経て、2014 年 4月から大阪大学准教授に就任。『報道ランナー』(関西テレビ)や『ミヤネ屋』(読売テレビ)にコメンテーターとして出演するほか、財務省「理論研修」講師、金融庁「金融審議会」専門委員等を務めるなど多方面で活躍。 ユニークな視点での経済解説に定評がある。

※掲載中の情報はMart誌面掲載時のものです。

イラスト/熊野友紀子 編集/倉澤真由美 WE構成/長南真理恵

2021年12月号
最近気になるNEWSな言葉「てまえどり」より

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