子どもに関する政策の縦割り行政で政策の抜けや漏れ、スピードに問題があることを受け、子どもにまつわる政策を一元化する「こども庁」をつくることが提言されています。創設されることで、現状が改善されるのでしょうか?
今月解説いただいたのは
森永卓郎さん
経済アナリスト。日本専売公社(現日本たばこ産業)ほか数々の企業に勤務後、現在は獨協大学教授。専門分野はマクロ経済、計量経済、労働経済、経済政策。『がっちりマンデー!!』( TBS)、『情報ライブ ミヤネ屋』( YTV)などにレギュラー出演中。むずかしい経済を明快に解説するわかりやすい語り口に定評がある。
なぜ「こども庁」が必要なの?
子ども関連の政策は、保育園・学童保育・医療は厚生労働省、幼稚園・学校は文部科学省、のように関係省庁がバラバラで、国の取り組みを一本化する組織が必要と考えられているため。
「こども庁」創設で目指していることとは?
- 縦割り行政の一元化による、抜け漏れがない迅速な対応
- 妊娠期から大人になるまでの切れ目ない支援
- 安心して子どもが生み育てられる環境の整備
\森永卓郎さんが考える/
「こども庁」創設で気になるポイント
- 幼保一元化など、実現のめどが立っていないものがある
- 子どもや子育て環境に必要なことは何か、今後きちんと中身を詰められるかが大切に
子どもに関する縦割り行政を一元化
子どもに関する政策を一元化して行う「こども庁」の創設に菅総理が意欲を示しています。自民党の議員30人が呼びかけ人となり、子育て問題を議論する勉強会を今年2月に行った際、そのメンバーがこども庁の創設についての提言書を4月1日に総理に手渡したことがきっかけでした。
提言書には、こども庁創設の目的として、「子どもが自分の意思で楽しく生きられる環境を整え、また子どもを持ちたい、育てたいと願う人々に寄り添い、子どもを産み育てやすい日本とするため」と書かれています。直接は書かれていませんが、子育て環境を整備することで少子化に歯止めをかけたいという思惑がありそうです。
そのための手段として選ばれたのが、こども庁を創設することにより、縦割り行政を打破することです。
形ばかりにならず実効性があるかがカギに
現在、子どもに関する政策は、多くの省庁が担当しています。たとえば就学前の子どもでは保育園が厚生労働省、幼稚園が文部科学省、認定こども園が内閣府の管轄です。就学後も、学校教育は文部科学省、子育ては厚生労働省、虐待があった場合には警察庁が担当しています。
このように担当が分かれていると、施策の調整に時間がかかるなど、これまでも縦割り行政の弊害が指摘されてきました。それを一気に解消しようとするために考えられたのが、こども庁の創設なのです。発想としては、悪くないのですが、問題は実効性です。たとえば長いこ
と重要課題である幼稚園と保育園の一体化(幼保一元化)については、こども庁創設においても実行される見通しが立っていません。これでは、笛吹けども踊らずということになりかねません。また、日本の少子化のいちばん大きな原因は、子育て環境が整備されていないことよりも、結婚する若者が減っていることです。日本では、結婚後に子どもを持つカップルが圧倒的に多いのです。
一部の識者は、今回のこども庁創設は、総選挙に向けての政権のアピールではないかという厳しい指摘をしています。そうならないように、今後きちんと中身を詰めていってほしいところです。
※掲載中の情報はMart誌面掲載時のものです。
イラスト/熊野友紀子 編集/倉澤真由美 構成/Mart編集部
2021年7月号
最近気になるNEWSな言葉「こども庁創設」より