『舟を編む』(2013年)『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)の石井裕也監督が、オリジナル脚本で描いたコメディタッチのヒューマンドラマ『愛にイナズマ』が2023年10月27日より全国公開中。松岡茉優と窪田正孝を主演に迎え、アフターコロナの世界を舞台にした愛と笑いの物語です。
『愛にイナズマ』あらすじ
幼少時からの夢だった映画監督デビューを目前に控えた、26歳の折村花子(松岡茉優)。気合と希望に満ちていた花子だったが、住む家は家賃の滞納で退去寸前、映画の助監督からは業界の常識を押し付けられ……と現実は甘くない。
ある日立ち寄ったバーで、魅力的だが空気を読めない男・正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たす。ようやく人生が輝き始めたかに思えた矢先、花子は卑劣なプロデューサーにだまされ、全てを失ってしまう。失意の底に突き落とされた花子を励ます正夫に、彼女は泣き寝入りせずに闘うことを宣言。
花子は10年以上音信不通だった家族のもとを訪ねて協力を仰ぐ。妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市)、口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男・雄二(若葉竜也)。そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、花子の反撃の物語は思いもよらない方向に進んでいく。
【見どころ①】映画俳優大集合!キャストのアンサンブルが魅力的
主演の松岡茉優さんと窪田正孝さんはじめ、映画での活躍が多いキャストが大集合で演技合戦は見ごたえあります。
松岡茉優さんは、最近ではドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」での確固たる信念を持った教師役が印象的でしたが、『愛にイナズマ』では感情むき出しで悪態をつく、焦る、怒る、泣く、恋をする花子を演じています。特に後半、正夫という頼りないけど実直なパートナーと出会って家族と対面してからは、若い映画監督としてバカにされ我慢してきた前半の悔しさを解放するかのように、本音を連発し、相手にも本音を求める発言を繰り返します。前半と後半でガラリと変わる花子の姿に注目です。
花子の恋人役の窪田正孝さんは、昨年公開の『ある男』では過去を捨てて別人として生きる男を演じ、今年8月に公開された『春に散る』ではボクシングの世界チャンピオンを演じるなど、ストイックな役づくりが印象的。今作では、洗い過ぎて縮んだ“アベノマスク”をつけ、空気が読めない、不器用でまっすぐな男・正夫役がハマっています。
花子の父で家族に秘密を抱える治を佐藤浩市さん、長兄・誠一を石井監督作品常連の池松壮亮さん、次兄・雄二を子役からキャリアの長い若葉竜也さんが演じていて、家族が集まったシーンでのセリフの応酬はずっと見ていられるほど面白い!
他にも仲野太賀さん、増岡徹さん、北村有起哉さん、高良健吾さん、趣里さんなど多忙なキャストが脇を固めて短時間の出演でもインパクトを残していました。そして映画プロデューサー役のMEGUMIさん、助監督役の三浦貴大さんが、実際に関わったらすごくイヤな奴をクセ強めに演じていたのが印象的でした。
【見どころ②】アフターコロナの社会へ向けた“問いかけ”
【見どころ③】感動しながら笑っちゃう
主人公の花子は人生どん底に落ちていて、家族はみんな少しずつ嘘や秘密を抱えています。内容的に重くなりそうなところを、セリフが軽妙でリアクションもおかしいので、クスリと笑っちゃうシーンがいっぱい。
花子と正夫が出会いうシーンでの、バーのマスターの振る舞い。やたら長男風を吹かせる誠一と、気弱そうなのに相手の痛いところを突いてくる雄二の兄弟喧嘩。久々に会った娘に言われるがままの父。なぜか赤い服を着せられる(花子は赤が好き)折村家の面々……面白過ぎます。
笑いながら観ていると不意に感動させられ、まじめに観ていると笑わされる。根底に流れるテーマは人間の命や愛だけど、しっかりとエンタメとして楽しませてくれる作品です。
文/富田夏子
作品情報
『愛にイナズマ』全国公開中
監督・脚本:石井裕也
出演:松岡茉優 窪田正孝
池松壮亮 若葉竜也 / 仲野太賀 趣里 / 高良健吾
MEGUMI 三浦貴大 芹澤興人 笠原秀幸 / 鶴見辰吾
北村有起哉 / 中野英雄 / 益岡 徹
佐藤浩市
©2023「愛にイナズマ」製作委員会
公式サイト:https://ainiinazuma.jp/